定期的なオイル交換の大切さ

 この自動車は、平成9年式の三菱自動車のチャレンジャーです。現在の走行距離は10万9千キロです。

 お客様より最近エンジンの回転に合わせて変な音がするので見て欲しいというご依頼を頂きました。ヤマダオートにご来店頂いたときに、エンジンから明らかに良くない異音がはっきり聞こえる状態でしたが、念のためお話を伺うと「ボンネットを一年くらい開けた事がない」との事でした。

 ちょっと調べさせて頂くと、車検を約一年前に受けた際にエンジンオイルを交換して以来、エンジンオイル23,000KM無交換でした。

 

 仕事場が変わり通勤距離が大幅に延びたため、自動車の使用環境が大きく変わったけど、今までと同じように気にせず乗り続けておられたそうです。オイルチェックランプ(赤い警告灯)が付いたらエンジンオイルを補充したら良いと思われており、アドバイスとして、赤い警告灯が付いたら直ちにエンジンを止めて下さい!!という合図であると言う事を説明させて頂きました。

 自動車にとってオイルはとても大切です。オイル切れや、オイル交換不備は自動車のエンジンに致命的なダメージを与えてしまいます。

 この三菱自動車チャレンジャーのエンジンの中がどのような状態になっていたか、画像を使い説明しようと思います。

 まず最初にエンジンオイルを抜いて調べました。すると、オイルに金属の粉が混じり出てきたので、やはりエンジンに相当ダメージを与えているようでした。そこで、お客様に、この自動車を修理すると相当な費用がかかりそうである旨の説明をした所、家族会議を開かれた結果、きちんと修理して20万キロを目指す!!との結論に至ったため、ヤマダオートにて、エンジンのオーバーホール(エンジンを分解してエンジンの破損した部分を修理してエンジンを復活させる修理)をさせて頂くことになりました。

 まずエンジン(原動機)オーバーホールの手順として車からエンジンを取り外します。

 そして、いよいよここからエンジン内部がどのような状態になっているか見て行くのですが・・・

 写真では分かりにくいですが、案の定、エンジン内部は相当量のスラッジ(茶色くこびりついている部分)がたまりひどい事になっていました。一部分を拡大すると・・・

オイルストレーナー洗浄前
オイルストレーナー洗浄後

 この一部分を拡大した写真は、オイルストレーナーと言われ、この簡易フィルター(オイルストレーナー)を通ってエンジン全体にオイルを吸い上げて潤滑させています。
 オイルストレーナー洗浄前、洗浄後の写真を比較して頂くと、洗浄前の状態ではオイルがきちんとエンジン全体に届かなくなりそうなのがお分かりいただけるのではないでしょうか。

 そしていよいよ、この自動車のエンジン分解作業(オーバーホール)に入っていくのですが、ちょっとその前に・・・ついでなので、タイミングベルトについて説明しようと思います。

 この写真に見えるベルトがタイミングベルトで、タイミングベルトを取り外す前の状態です。

 ベルトを介して、それぞれが連動して回転するようになっています。

 タイミングベルトを取り外すと・・・

 この写真がタイミングベルトを取り外した状態です。お客様の中にはボンネットを開けてエンジンルームをのぞいた時に見えるベルトをタイミングベルトと勘違いされている場合もありますが、通常の自動車の場合は、とても大切なベルトなのでカバーで保護をして見えない状態が多いです。

 なぜ大切なのかですが、このベルトが切れるとエンジンが始動できなくなるのはもちろん、最悪の場合、エンジン内部を破損してしまうからです。

 その為、タイミングベルトが付いた国産自動車は、10万キロごとの交換が必要とされています。(外車はもっと早い車が多いです)

シリンダーヘッド取外し前

 さらに余談ですが、この自動車のエンジンはV型エンジンと呼ばれているのですが、V型と呼ばれるのは、この写真を見て頂ければ一目瞭然!形がVの形をしているからです。

 話を元に戻して、エンジンの内部がどうなっているかですが、まずは写真のV型エンジンの1の部品シリンダーヘッド(シルバー色の上の部分)と2の部品シリンダーブロック(黒色の下の部分)を分離します。
 すると写真の様にピストンの頭(2の部分の穴が埋まっている所)が見えてきます。これで、ピストンをシリンダーブロック(2の部分)から取り外せます。取り外した1のシリンダーヘッドの状態は・・・

シリンダーヘッド分解洗浄前
シリンダーヘッド分解洗浄後

 写真を比較して頂くと、どれだけスラッジ(オイルのカスなど)がこびりついていたかお分かり頂けると思います。シリンダーヘッド①についているバルブがどうなっていたかというと・・・

バルブ洗浄前
バルブ洗浄後

 ご覧のとおり、分解して取り外したバルブの洗浄前の状態は、かなりカーボン(燃焼カス)が堆積していました。洗浄後の写真と比較して頂くと分かりやすいと思います。

 このバルブにこびりついたカーボンを除去する洗浄作業を、この車の場合は24個バルブが付いておりとても大変ですが、一つずつ丁寧に進めて行きます。

 エンジンに確実に空気を送り、確実に密閉、圧縮し燃料が爆発した後、確実に排気させる大切な部品なので、洗浄とともに、精密な点検をして、異常がなければ再使用し、異常があれば新品に交換して、バルブ摺合せをした後に組みつけて行きます。

 少し前に説明したタイミングベルトは、このバルブと、後に説明するクランクシャフトを連動させる大切なベルトなのです。タイミングベルトが切れると最悪の場合、このバルブが折れたり、ピストンが割れたりしてエンジン本体に取り返しのつかない大ダメージを与えてしまいかねません。

 そしていよいよエンジン本体(写真の2の黒い部分)を分解していきます。といってもあと残っている部品は、2の部分(シリンダーブロック)、クランクシャフト(爆発によって上下に動くピストンを円運動に変更する部品)、そしてピストンとなります。

 ですが、ここからが本当のエンジンの心臓部分になります。

 少し前、V型の説明をした写真の、2黒い部分(シリンダーブロック)の中に入っている部品を取り出した写真がこちらです。

 6個のピストンと一つのクランクシャフトです。この写真の部品で、燃料が爆発した力をピストンが受け止めて、そのピストンがつながっているクランクシャフトは、ピストンの上下運動を円運動に変換して、最終的にタイヤへとエンジンの力を伝えています。

 その部分が、オイル交換をしていなかったこの自動車ではどのような状態だったかですが・・・

ピストン洗浄前

 こちらの写真が、この自動車のピストンを拡大した写真です。

 カーボンやスラッジ(燃料やオイルの燃えカスなど)がピストン全体にこびりついているのはもちろんの事、写真では分かりにくいですが、オイルリング(上から3つ目の溝にはまっているピストンリング)が、カーボンやスラッジにより固着して全く動かなくなっていました。

 この症状は、爆発力の低下や、オイル上がりと言って、マフラーから白煙が出る症状など(最近の自動車は部品やオイルの質が上がっているのかモクモクと白煙が出る事は少なくなりました)によるオイル消費増大の原因となります。

 3つあるピストンリングにはそれぞれとても大切な役割があり、どの部品も正常に作動しなければ、エンジンに致命的なダメージを与えかねません。

ピストンリング装着前
ピストンリング装着後

 この写真が、ピストンリングを全て取外し洗浄したピストンと、その後ピストンリングを組付けたピストンの比較写真です。ピストンリングを外した写真を見ると、上から3つ目の溝(オイルリングが組み付けられる部分)に、小さな穴が開いているのが確認できると思います。

 洗浄前は6個あるピストンのほぼ全ての穴がカーボンやスラッジで詰まっていました。その結果、オイルリングが固着してしまったと考えられます。

 その穴を全てオイルが通る様に洗浄、清掃してピストンの溝にこびりついたカーボン、スラッジを除去して新品の適したサイズのピストンリングを組付けます。ピストンリングが正常に働くことによって、爆発した燃料の力がタイヤまできちんと伝わる事に繋がります。

 この写真は、ピストンとクランクシャフトの繋ぎ目に使用するコンロッドベアリングと呼ばれる部品の新旧を比較した写真です。オイルに混じって出てきた金属の粉はこの部品の表面が剥離したものでした。

 写真の左側が古いベアリングですが、中心の穴の左下側に色が変わっている部分があるのにお気づきでしょうか?ベアリングの表面が剥離した状態です。写真の右側が新品のコンロッドベアリングなので、よく見比べて頂くと違いが分かって頂けると思います。

 こちらが、役目を終えた部品たちです。

 これらを含み、再使用出来ないと判断した部品を全て新品に交換して、きちんと組み付けする事によって、リフレッシュしたリビルドエンジンへと生まれ変わります。

 そして最後の最も大切な部品がクランクシャフトとシリンダーブロックです。この部品が再使用出来なければ、かなり高額な部品のためエンジンのオーバーホール費用が数段高額になってしまい、中古エンジンに載せ替えた方が良い選択かなと思っていましたが、今回は、点検の結果再使用できる状態だったので、結果として一番良い方法で修理する事ができました。

シリンダーブロック
クランクシャフト

 この写真がシリンダーブロックとクランクシャフトです。このクランクシャフトの回転力がタイヤへと伝わり車を動かす原動力となります。そのクランクシャフトに回転力を与えるのがシリンダーブロックの筒(シリンダー)内で爆発した燃料の力により上下運動をしているピストンになります。

リビルドショートエンジン

 これら分解したエンジンの各パーツを洗浄、点検、測定、交換、組付けをしてリビルドエンジンを完成させていきます。

 そして出来上がったのが左(上)のリビルドエンジン(ショートエンジンとも言います)です。これに補機類を取付け完成させたのが右(下)の写真です(エンジンの廻りに如何に多くの部品が付いているか写真を見比べると分かって頂けるのではないでしょうか)。後は車のエンジンルームに乗せれば出来上がりです。

リビルドエンジン完成

 ここまで出来ればあともう一息なので、ちょっと話をそらしてエンジンの動く仕組みを少しだけ説明してみようと思います。

バルブの作動画像

 この写真は、シリンダーブロックの上に組付けるシリンダーヘッドと呼ばれる部分です(Part1のブログにも分かりやすく写真を貼っていますので良ければご確認下さい)。
 この部分の役割を簡単に言うと、エンジンに必要な、空気と燃料の混合気を燃焼室(シリンダー)に送り、密閉し爆発させ、燃焼ガス(排気ガス)を排出する事です。
 写真の矢印1は密閉、矢印2は混合気の吸入、矢印3は爆発した燃焼ガス(排気ガス)の排出時のバルブの状態を大げさに表しています。このバルブが的確なタイミングで動き確実に作動することによりエンジンが正常に作動します。
そのバルブをきちんとしたタイミングで作動させるパーツの一つが前述したタイミングベルトなのです。

チャレンジャーエンジンオーバーホール完成
チャレンジャーとの再会に喜ばれるお客様

 話を戻して・・・、そして後はエンジンを載せて、エンジンルームも洗浄して最終チェックをします。その後お客様に完成の連絡をしてお引渡ししました。ぜひ、末永く大切にチャレンジャーに乗り続けて頂きたいと思います。

 お客様のチャレンジャーとの再会時の喜びあふれる笑顔をみて、ヤマダオートも大変嬉しい気持ちを頂きました。この度は、ヤマダオートをご利用頂きありがとうございました。

 では、今回はこの辺で・・・